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あるいは未知でいっぱいの海

分類:森近霖之助 魂魄妖夢 西行寺幽々子 マエリベリー・ハーン 短編
 
 
「人間が知覚することが出来る世界は、驚く事に僅か5%程しかないらしい」

 僕がその言葉を半人半霊半熟庭師に投げかけた時、彼女から返ってきた答えは「は?」と言う単純極まりないもので、それは僕の求める答えを5%さえも満たさないものだった。


 元々の起こりは、最近読んだ本の中でどうにも僕の興味を引き、それでいて疑問を抱かせる記述を見付けた事だった。
 それを、主人からの使いと言う事で店に訪れた妖夢に問いかけることで、僕の中にある疑問符を解消しようと思ったのだ。しかしこの反応を見るに、どうやらそれは大失敗だったらしい。僕の言葉の意味を計りかねているのか、今の妖夢の頭上には僕以上の疑問符が立て続けに浮かんでいるのがありありと見て取れる。

 フムン、どうやら彼女には少々難しすぎたか。もう少し彼女にも判り易いように、順序立てて説明していくとしよう。

「そうだな……妖夢。君は『宇宙』と言うものを知っているかい?」

 僕の問いにふるふると首を横に振る妖夢。ついでに半霊まで揺れているのは、あちらの方にも人格が備わっていると言う事なのだろうか? それとも単に本体である身体につられて動いているだけ? まぁ、この瑣末な疑問は今は置いておこう。

 さて、宇宙の説明から入るとなると少々面倒だな……取り敢えず長話になりそうなので、僕は妖夢に腰を落ち着けるように勧める。
 僕の言葉を受けて、素直に近場の椅子へと腰掛ける妖夢。これが魔理沙や霊夢だったらさも面倒くさいという表情をして、聞く耳を持たずにとっととどこかに行ってしまうんだろうな。

「宇宙。それは、この幻想郷を包み込む結界、その結界の向こう側に存在する外の世界、その外の世界を更に大きく包み込む、果ての無い程の広さを誇る大結界のことだ。その果ての先にあるものを知る者は、誰も居ないとさえ言われている」

 僕の言葉が余りにも壮大だった為か。妖夢は想像も付かないとでも言いたげな難しい表情を浮かべている。それでもその眼に疑いの色が全く見えないのが、今まで僕の話を聞いてきた者達とはまるで違う点か。彼女は「この世界は巨大な象の上に存在する」と言っても信じるのではないだろうか。

「さて、宇宙というものが、途方もないほど膨大な広さを持つ事は判って貰えたと思う。そこからが先程の問いに繋がってくるのだが」 

 そこで僕は一旦言葉を切り、改めて妖夢の方に目線をやる。すると僕を見据えていたのは、まるで抜き身の刀身を思い起こさせるような、真剣極まりない眼差しだった。
 なるほど、この様な些細な雑談からも何かを得ようとする彼女の姿勢は素晴らしい。今はまだ未熟も良い所だと思っていたが、中々どうして彼女もやるものではないか。きっといつの日にか立派な人物へと成長する事だろう。その日が僕の見られる内に訪れるかは保証出来ないが。

「その広い広い宇宙と言う結界。その結界内に存在する物質で『人』がその眼に捕らえることが出来るものは、宇宙全体の僅か5%程しかないのだという。つまり世界の大半は、人にとって得体の知れない暗黒の中にあると言う事だ。
 さて、ここでようやく先程の問いへと帰結する訳だ。僕は『人』が知覚することが出来る世界は5%だと言った。なるほど、ただの『人』にとってはそうかもしれない。では『人からずれた』者ならばどうなのだろう? そう思ったから僕は君に問いかけた訳だ」

 本音を言えば人から半歩ずれた彼女ではなく、出来れば生粋の妖怪などに聞きたかった所だが、丁度良い機会に店を訪れたのが彼女なのだから仕方が無い。

 因みに霊夢や魔理沙の見えているものと僕の視界をすり合わせた結果、僕の見える世界は普通の人間――僕の店を訪れる人間は往々にして普通では無い場合が多いのだが――とさして変わりがないらしい。精々、道具の名前と用途が見えたりする程度だ。

「そうですね。私に見えるものは他の方々と変わりはないと思います。私がもっと修行を積めば、また違ったものが見えるかも知れませんが」

 しかし妖夢の返答は、やはり僕の期待を5%も満たしてはくれなかった。やはり半分程度では、世界の有り様は変わらないのだろうか。

 まぁ、良い。次に人にあらざるものに会う機会があれば、是非この問いを投げかけてみようと思う。

「そうか、ありがとう。時間を取らせて悪かったね」

 僕が妖夢に礼を言うと、彼女は足早に店を立ち去った。

 それにしても、人の眼には見えない物質か……そう言えば外の世界の話に、そのような物質で作られた服を着た王様の話があった気がする。もしかしたら外の世界では、既に不可視物質を制御する技術をものにしているのかもしれない。これはいつの日か外の世界に旅立つ日が益々楽しみになったというものだ。

  ◆  ◆  ◆

「人が見られるものは、世界に5%程しかないらしいです」

 私は幽々子様と共に食卓を囲む中、ふと思い出したその言葉を口に出した。昼間、香霖堂を訪れた際に店主に言われた言葉だ。思えば、いつもいつもあの店をお使いで訪れる度、私は彼の言葉を長々と聞かせられる。そのせいで、私は自然と店へと足止めを食うことになってしまうのだ。
 今日も今日とて用事を済ませてさっさと帰りたかったのに、やはりいつもの店主の余計な長話に捕まり、帰るのが遅れてしまった。

 この頃は、相手の話を真剣に聞いている振りをすることでさっさと会話を切り上げられることに気が付いたのだが、それにしたってあの店主は余分な情報を話の筋に付け足しすぎる。意味の判らない言葉をずらずらと並べず、簡潔に要点を纏める事が出来ないのだろうか。まぁ、出来ないからこそあの店は閑古鳥が鳴いているのだと思うけど。

「へぇ、じゃあ世界には見えてないものが沢山あるのね」

 その手に握った箸を止め、幽々子様が私の言葉に応える。何か思うことがあるのだろうかとも考えたが、幽々子様の目線が卓袱台上を動いている所を見るに、恐らく次にどれを食べようかと思案しているだけだろう。

「見えてないものがそんなにあるのなら、どこかに青い桜なんてものも咲いていたりするんでしょうか?」

 私の脳裏で仄かに青く揺らめく花弁。そのような桜が見事に咲き誇っていたら、幽々子様にはさぞ似合うことと思うのだけれど。

「変わった色の桜が見たいのなら御衣黄や鬱金桜で充分。それよりも私は、誰も出会った事がないような食材があるかどうかが気になるわね」

 『花より団子』の精神の前に素気なく却下される私の意見。それに伴い私の脳裏に咲き誇っていた桜も、はらはらとその身を散らす。私にはそれがとても風情ある風景になると思えたのだが。

 それにしても幽々子様は、誰も出会った事がないようなものを私に捌けと言うのだろうか。うん、十中八九言うだろうなぁ。

「なるほど判りました。その時が来れば私の腕を存分に振るいましょう。しかし、差し当たってはお代わりを用意する為に振るいましょうか」

 幽々子様から差し出された空のお茶碗にご飯をよそいながら私は考える。
 そう、いつの日か人にとって未だ見ぬ『何か』が突如襲い来る事もあるかもしれない。そのような有事の際、主の身を守れぬようでは西行寺家庭師の名折れに他ならない。私はもっと、今以上に強くならなければ。
 私はより一層の精進を我が身に誓いながら、茶碗へと黙々とご飯をよそい続けるのだった。

  ◆  ◆  ◆

「世界は5%程しか見えないらしいわ」

 白玉楼の縁側。そこに私と紫は腰掛け、互いに朧月を見上げながら杯を傾けている。その手を一旦止め、そして口から出たものは、先程私が妖夢より聞いた言葉だった。

 こんな月夜に行われる会合の肴は、専ら互いの従者の話が務める。それにしても、毎度々々妖夢は見事な酒の肴を提供してくれるわね。今日言っていた事は、大方どこぞの頭でっかちな店主に吹き込まれたんでしょうけど。

「5%……。ねぇ、幽々子。寧ろ、世界の全てが見えていると思える方が傲慢だと思わない? 眼に映らないけど確かに存在するものはいくらでもあるわ」

 私の言葉に紫はどこか遠く、まるでここではないどこか――それこそ95%のどこか――を見詰めるような眼をした。彼女との付き合いは、それなりの年月を積み重ねてきたつもりだった。
 だがこのような、まるで天上に掛かる薄もやの中で静かに輝く月を思わせる、どこか憂いを秘めた表情。それを彼女が見せたのは初めてかもしれない。

「例えば人と人を結ぶ、友情や、絆などと呼ばれるものたち。そういった言の葉に綴ってしまうととても陳腐な、でも確かに存在するもの」

 そして彼女から次いで出た言葉も、やはり普段の彼女ならばおおよそ口にはしないようなものだった。それは、とてもとても甘い言葉で、まるで夢見る少女の言動そのもの。

「紫がそんな言葉を口にするなんて珍しいわね」
「あら、私だって月が美しい夜にはそんな気分にもなるわ」

 そう言う紫の目線は相変わらず遠く、私を見ようとはしない。一体、彼女の眼は何を見ようとしているのかしら。私の眼に、紫からの友情の一つでも見えれば嬉しいのだけれど、生憎とそのような力はこの眼には備わっていない。
 無形なものの存在を信じながらも、心のどこかでは信じ切れない自分。相反する気持ちを抱えながら、私は一人杯を干す。

 どうやら私は、初めて見る彼女の憂いに当てられたらしい。なるほど、全てが見えるのは必ずしも良い事だけではないわね。人に見えるのは5%程度で、案外丁度良いのかもしれないわ。

 己の境界を踏み越えて他の世界を覗き見ても、そこには恐ろしいもの、決して見たくないものが待ち構えているかもしれないのだから。あるいは見えると思い込んでいたものがもし見えなかったら。その時受ける衝撃は、きっと惨憺たるものでしょう。

 柔らかな月明かりの下で、隣り合いながらも決して交錯しない眼を抱えて、私はそんな事を考える。

  ◆  ◆  ◆

「人間が知覚することが出来る世界は、僅か5%程しかないらしいわよ」

 私は眼を通していた本にふと興味深い記述があるのを見つけ、それをそのまま蓮子へと話しかける。好奇心の塊である彼女は、この情報にどう反応するかと思ったから。
 未知なるものへの探求心が人一倍強い彼女は、この情報を果たしてどう受け取るだろう。余りにも見えないものが多い事に驚くかしら? それとも何とかしてその95%を見てみようと、今以上に躍起になる?

「へぇ、思ってたより多いわね」

 しかし蓮子の反応は、私の思い描いていたものとはことごとく異なるものだった。彼女は私の投げかけた情報を冷静に受け止め、そしてさも楽しそうに微笑みながら、私の言葉に応える。

 それにしても「思ってたより多い」とは。その言葉の真意を私は蓮子へと問いかける。

「私は、人間がこの世界全てを見通せる、なんてこれっぽっちも思ってないわ。そんな狭い世界じゃ面白みだって少ないだろうし。
 それに、眼に見えないけど確かに存在するものなんていくらでもあるじゃない。例えばほら……私とメリーを繋ぐ絆、とかさ」

 さらりとこちらの顔が熱くなるような事を言ってのける蓮子。どうやらそれは彼女の方も一緒だったのか、目を伏せ顔を赤くしている。そんなに恥ずかしいのなら言わなければ良かったのに。

 でも、私はその言葉がなんだか無性に嬉しくて、やっぱり言ってくれてありがとうと口の中で小さく呟く。恥ずかしいから、大きな声では言わないけど。

「ほ、ほら! 見えないものがそんなにあるなら、残りの95%の中に私達が求める『幻想』ってやつもきっとあるわ!」

 彼女は頬の赤みをごまかす為、大仰な身振りで私を促す。どうやらこのあとの予定は、まるまる彼女に付き合わされる事になりそう。

「さぁメリー! 未だ見ぬ幻想を95%に求めて! 秘封倶楽部発進よ!」

 そうね。例え今はこの眼が『幻想』を映すことは叶わぬとも、彼女と一緒ならきっとその見えない幻想も感じられるはず。だって今の私は、彼女と私を繋ぐ決して断ち切れぬ絆を確かに感じているのだから。
 
 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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何かありましたら上記の連絡先までお願いします。
(○を@に変えて下さい)

Skype ID:suzu_tuki

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