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強き心 強き願い

分類:森近霖之助 季節ネタ 掌編
 
 
 日が落ち、夜のとばりが辺りを覆い隠した頃。
 見上げた空には、一体どこに隠れていたのだろうと言いたくなる程の無数の星々。
 沢山の煌めきは寄り添い合い、重なり合い、まるで運河のようにも思える。
 その大いなる流れを見詰めながら、僕は考える。

 あれらの星々は、日中はどこに隠れているのだろう。
 もしや、隠れ潜みながら人々の生気を取り込む事に専念しているのではないだろうか。
 そして人々が寝静まり、その生命活動を休止させる時分。
 即ち夜になると、存分に溜め込んだ生気を中空へと放出する。
 そう、だからこそあの煌めき、あの妖しさ、あの美しさなのだ。

 本来、星の輝きは単なる反射によるものでしかない事を、僕は知識として知っている。
 しかし今宵訪れた夜天の輝きは、そんな夢や幻想の欠片もない『知識』を疑いたくなるような程に見事なものだった。

 何故ならば今夜は七夕。
 一年にただ一度だけ許された恋人達の逢瀬を、星々が祝福すると言われる日だから。

  ◆  ◆  ◆

 ここは香霖堂の縁側。
 僕はそこで一人、天に掛かる川を見詰めながら杯を傾ける。

 一人で楽しむ為にとっておいた上等の酒。
 芳醇な味わいを楽しみながら思案するのは、もちろん牛郎織女の事だ。

 一年に一度だけ会う恋人達。
 彼等はそこで、一体どのような言葉を交わすのだろうか。

 一年間にどれだけ相手のことを想ったかを伝えるだろうか?
 一年間にどれ程相手に会いたかったかを伝えるだろうか?
 はたまた、会えない一年間に何をして過ごしていたかを伝えるだろうか?

 いくら考えたとて、僕には答えが導き出せそうにない。
 何故ならば、望むように愛しき人に会えず、面会が許されるのは四季が巡りしその時のみ。
 そのような束縛された生き方など、僕には到底想像する事が出来ないからだ。

 この幻想郷では、自らの望まぬ生き方をするなんて酔狂な者は居ない。
 現状に不平不満の大小はあれど、大筋皆望むままに生きている。
 ご多分に漏れず僕も――まぁ、客足の少なさに辟易する時はあるが――悠々自適な毎日を送っている。

 だから織姫と彦星の抑圧された生き方の上に成り立つ言葉など、僕には全く考える事が出来ない。
 相手の気持ちを推し量るのは、まずは相手の立場に立つ事から始まる。
 相手の立場が全く理解出来なければ、気持ちを理解出来ないのも当然だろう。

 夜空に浮かんだ幻想の川と、それに阻まれる恋人達に思いを馳せながら、僕は杯の中でたゆたう酒を飲み下す。
 哀れな両者が紡ぐ言の葉は相手に届く事は叶わず、煌めく天の川の流れに乗り、何処とも知らぬ彼方へと流されてしまうのだろう。

 フムン、ではもしも、僕が彦星の立場だとしたらどうするだろうか。

 川を渡れる道具でも開発するだろうか。
 川を越えて声を届ける手段でも考えるだろうか。
 それともいっその事、川を渡る事など諦め、織姫の事は忘れ去ってしまうだろうか。

 そこまで考えて、ふと一つの疑問を思い浮かべる。
 僕が彦星だとしたら、織姫は誰だろう?

 僕は思いつく限りの女性達を織姫像に当てはめようとして、結局止めた。
 彼女達が甘んじて天帝の罰を受けるなんて事は、断じて有り得ないからだ。

 百歩、いやそれ以上が必要だろうか。
 まぁとにかく、かなりの譲歩を行い彼女達が織姫の立場に立ったとしよう。
 すると織姫はたちまち川を飛び越え、どこへともなく気ままに去ってしまうだろう。

 なんて自由で、自分勝手な織姫達。
 でも、だからこそ、ここは幻想郷たり得るのかもしれない。

 ならば気が向いたら、是非織姫にはうちの店を訪れて貰いたいものだ。
 その時は、僕も彦星として彼女達に言葉を紡ぐ事にしよう。
 そうすれば、年に一度くらいは代金を払ってくれるかもしれない。

 ……少し酔ったかな。
 こんな馬鹿げた考えが頭をよぎるとは。
 まぁ良い、どうせ酒の上の出来事だ。
 それに居るのは自分一人、誰に遠慮する事がある。
 
 僕は哀れな彦星に何故か親近感を感じながら、一人手酌を続ける。
 夜空を見上げると、空には相変わらず無数の瞬き。
 酔いが回ってきた為か、数々の煌めきが僕を笑っているように感じるのが少し癪だった。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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何かありましたら上記の連絡先までお願いします。
(○を@に変えて下さい)

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