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色色衣

分類:森近霖之助博 麗霊夢 霧雨魔理沙 短編
 
 
 春。
 厳しく攻め立てる白き寒さを乗り越える事で自然が青々とした新たな命に充ち満ち、生命の素晴らしさを謳歌する時節。

 だと言うのに香霖堂を内包する魔法の森一帯は、鬱蒼とした冬の気配に充ち満ちていた。
 今だ底冷えするような寒風が香霖堂の外壁を執拗に舐め上げる。
 何しろ残雪が香霖堂の周囲を白く染めているのだ、これでは春などとは到底呼べるものではない。

 そんな訳で香霖堂では、未だにストーブのもたらす恩恵を捨てきれずにいた。

  ◆  ◆  ◆

「全く、この香霖堂にはいつ春が来ると言うんだろう」

 香霖堂店内。
 ストーブのおかげで寒さを感じる事はないのだが、やはり陽光を存分に浴びられない事には調子が狂うのだろうか。
 番台に座り込みながら、不満そうに霖之助が愚痴を零す。

「客さえ来ないんだから、そりゃあ春なんて余計に望むべくもないだろうぜ。
 このままじゃ懐から凍ってお終いだな」

 その物言いは暗に自らを客ではないと言っている事に気が付いているのだろうか。
 壺の上に腰掛け両足を所在なさげに遊ばせながら、魔理沙が軽口を叩いて霖之助を冷やかす。

 霖之助としては魔理沙の言葉を「何を戯言を」と切って捨てたかったのだが、如何せん彼女の言葉は香霖堂の現状を的確に表していた。
 霖之助が思わず現実から顔を背けたくなる程に。

 そう、ただでさえこの寒さで客足が冷え込んでいる所に、そんな寒さなどものともせずやってくる冷やかし達のせいで香霖堂の内情は彼女の言う通り既に凍死寸前。
 このままではやがて二進も三進も行かなくなるだろう。

 この閉塞状況を打破する為に、霖之助は暖かな春の日差しを待ち望んでいたのであった。
 春が来る事と客が来る事には実際何の因果関係もないように思えるが、彼は彼なりに必死なのである。

「霊夢、君には良い考えはないかい? 何とかしてくれればツケの事も少しは考慮するよ」

 霖之助は魔理沙には頼れないと感じたのか、彼女と一緒に来店していた霊夢に助けを求める。
 先程より我関せずを決め込みお茶を啜っていた霊夢は、その言葉を受けて悠然と立ち上がった。

「そうね……まずはあの白黒を追い出せば良いんじゃないかしら」
「中々聞き捨てならない事を言ってくれるじゃないかこの巫女は」
「まぁ落ち着け魔理沙。
 腹を立てるのは訳を全部聞き終わってからでも良いだろう」

 霊夢の言葉にいきり立ち、飛び掛からんとする魔理沙。
 慌てて霖之助が彼女を諫める。
 店内で暴れられては、虫の息の香霖堂に今度こそ止めを刺されてしまうからだ。

「貴女にも判るよう親切丁寧に説明してあげるからちょっと待ってなさい魔理沙。
 まずは……四神の説明からしていった方が良さそうね。

 古来より季節、即ち天は四神――青龍・朱雀・白虎・玄武――がその巡りを司っていると言い伝えられてきたわ。
 そして各季節はそれら四神に応じた、象徴とされる四色がある。
 春は青、夏は朱、秋は白、冬は玄、って具合にね」

 霊夢の弁にへぇと頷き、暖かな視線を送る霖之助。

 ――世界の巡りを司る神々、四神。
 かつてこの国で栄えた都、平安京はそれら四神に相応しい地相、つまり四神相応を考えて作られたのだと言う。
 そしてその結果、長きに渡る安寧を得られたのだとも。
 つまりは四神がその土地に及ぼす影響は、その地が持つ運命を揺るがす程のものなのだ。

 普段気ままに過ごしているように見えるが、流石は神に仕える身と言うべきか。
 中々どうして彼女も博識ではないかと、霖之助は霊夢の認識を改める。

「さて、ここで重要なのはこの香霖堂の主人たる霖之助さんの属性ね」

 そう言うと霊夢はおもむろに霖之助の服を指差した。

 霖之助の服。
 和装とも洋装とも付かぬ、彼自身の手による独特としか言い様がないもの。
 その装束は黒と青とが渾然一体となっている。

「霖之助さんを司る色は主に玄と青。
 これは四色によると冬春となるわね。
 これでは確かに冬が長居するのも当然と言えるわ」

 興が乗ってきたのか、次第に饒舌になってくる霊夢。
 その頬もどことなく赤みを増しているようだ。

 そして舌が勢いを増すにつれて、少しずつ霊夢は番台に座る霖之助の方へと足を進めだした。

「そこで私の出番って訳。
 何しろ私を司る色と言えば朱と白、つまりは夏秋。
 霖之助さんの影響を中和して春を呼び込むには最適の相手って訳ね」

 霊夢は霖之助の目の前までやってくると、おもむろにその両手を番台上にある霖之助の掌へと重ねる。
 それはまるで獲物を絡め取る蛇のように、ゆっくりと。

「フムン、そこまでは確かに理に適ってるな。
 でも肝心の説明がまだだ、魔理沙を追い出そうとした訳がね。
 まぁ大抵想像は付くのだが」

 しかし霊夢の行動など意に介さず、あくまで冷静に自らの疑問を晴らそうとする霖之助。

 霊夢の方もこの淡泊な反応を予期していたのか、さほど気にせず彼の求める答えを提示する。

「魔理沙を司る色は見ての通り白玄。
 秋冬の属性を持つ魔理沙なんて置いておいたら、益々冬が勢いづく事でしょうよ」

 言いたい事は全て吐き出したのか、無言で霖之助と絡めたままの手を徐々に自分の元へと引き寄せる霊夢。
 それを受けて霖之助は思案を進める。

 ――ここで彼女の申し出を受け入れれば、確かに春がやってくるのかも知れない。
 何しろ博麗の巫女のお墨付きなのだから。

 ――とは言え彼女の事だ、当然それなりの報酬を要求してくるだろう。
 やれ香霖堂に居てやるから三食面倒をみろだの、ここに居て神社で仕事が出来ない分ツケを帳消しにしろだの。
 さて、どうしたものか……

「納得いかんな! 大体色だけで季節が決まるなら、春の象徴たる春告精は真っ青じゃなきゃならんだろう。
 私の知る青い妖精は氷の塊だったぜ。
 まぁ、確かに頭は春っぽかったが」

 霖之助が結論を下せずにいる中、霊夢の持論に反発するものが一人。
 言わずもがな白黒の魔法使い、魔理沙である。

「それより春に来て欲しいんだったら、私がその辺の雪を全部吹き飛ばしてやる。
 そうすりゃ春の奴も驚いて飛び起きるだろうぜ!」

 霊夢に対して感情を露わにして憤る魔理沙。
 元々彼女の霊夢に対する対抗意識は並々ならぬものがある。
 そんな相手から「お前は邪魔だから出て行け」と言われれば、その怒りは恐ろしく燃え上がる事だろう。

 霊夢もそんな魔理沙の様子を一瞥すると、最早後には引けぬ状況になったと悟る。
 そして先程から絡めていた霖之助の掌を放すと、魔理沙の正面に対峙した。

「ま、あんたの事だから素直に出てく訳じゃないのは目に見えてたわ」
「流石霊夢、私の事を良く理解しているようで恐悦至極だぜ。
 だったらこの後何をしようとしているのかも判るだろう?」
「ええ、生憎と長い付き合いですもの。
 嫌でも判るわ」

 互いに言葉を交わしながらも、両者の身から放たれる気迫は烈火の如く鋭さを増していく。
 霖之助はそんな臨戦態勢の彼女達を見やると、頼むから店内でだけは暴れないでくれと切実な願いを掲げる。
 情けない話だが、彼女達がその気になれば霖之助に止める手立てなど無いのだ。

「んじゃちょっくら軽い運動と行くか。
 香霖、熱い茶を用意しておいてくれ。
 私の分だけで良いからな!」
「間食前の腹ごなし、と言った所ね。
 霖之助さん、玉露とお茶請けの準備をよろしくね。
 私の分だけで十分だから」

 霖之助の願いが天へと通じたのか、店外へと飛び出していく二人。
 その勢いは外の寒気など関係ないと言わんばかりだ。
 二人が飛び立った白い空は、すぐにも色取り取りの弾幕で煌びやかに輝く事だろう。

 ――やれやれ、元気な子達だよ全く。
 そうだな、彼女達が居れば春なんてすぐに飛び起きてやってくるだろう。

 彼女達によって開け放たれた扉から吹き込んでくる、暖かく、そしてどこか若葉が香る風を霖之助は確かに感じた。

 そして霖之助は二人分のお茶を煎れる為、鷹揚に立ち上がるのだった。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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何かありましたら上記の連絡先までお願いします。
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