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あなたの人生の物語

分類:森近霖之助 霧雨魔理沙 掌編
 
 
 その日、僕の気分は優れなかった。無縁塚にて新しい本を幾つも仕入れたにも関わらず、だ。理由は簡単。店に帰り着いた僕が希望に満ちた気持ちで本を開き、新たな未知を探求しようと思ったその矢先。陰鬱な表情で店にやって来ては、そのまま一人何も言わずに店の一角を陣取っている白黒の輩が居る為だ。
 全く、間近で意気消沈している人物が居てはせっかくの本も楽しめる訳が無い。僕の神経は繊細なんだ。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、魔理沙は来店以来ずっとただただ帽子を目深に被っては、何も言わず沈痛な面持ちで地を見詰めている。店内にこんな陰の気を発するものが居ては、他のお客が入ってきたとてすぐに出て行ってしまうだろう、これは立派な営業妨害だ。……まぁどのみち今日は店を開かずに本に没頭するつもりだったのだが。


 魔理沙が来店して四半刻、状況は相変わらずだ。彼女がこうも鬱ぎ込んでいる理由は判らないが、こちらとしてはそれを問いただすつもりは無い。向こうもおそらくそれは望んでいないだろう。さりとてこのまま居座られても読書に手が着かないのは事実……フムン、ここは一つ現状を打開すべく動くべきか。

「さて、魔理沙。君が何故こんな営業妨害どころか、僕の楽しみさえも奪う真似をしているのか、それを聞くつもりは僕には無い。寧ろ君に望むのは全くの逆だ。そう、僕の言葉を聞いてもらう。それが嫌なら早々に立ち去ると良い。だがあくまで僕の店に居座ると言うのなら、店主の言葉を少し拝聴してもらおうか」

 どうやら魔理沙は僕の話を聞く方を選んだらしく、立ち去るそぶりを見せず顔を伏せたままじっとしている。それならばと僕は言葉を続ける。

「そうだな、例えば……君の人生で起こりうる森羅万象がこの一冊の本に全て収められているとしよう。もちろんこの物語の主人公は君だ」

 僕はそう言うと手にしていた本を魔理沙に見えるように掲げる。しかし、視線は魔理沙の方には向けない。何故か、彼女の顔を見てはいけない気がしたからだ。

「さて、今現在悄然としている君の記述は果たしてこの本のどの辺りに有るだろうか? きっとまだまだ前半戦の方だろう。下手をすればまだその前のあらすじさえ終わっていない可能性だって有る。それだって言うのに主人公が鬱ぎ込んでうじうじと悩んでいたら、どんな読者だって読むのを止めてそれ以上その本に付き合う事をしないだろう」

 僕の言葉を受けてか、心なし魔理沙から発せられる陰の気が薄れてきたようにも感じられる。

「一読書好きとして言わせてもらえば、僕自身は完成度の高い物語よりも、例え筋書きは荒唐無稽でも登場人物達が思うままに生き生きと動いている物語の方がよっぽど好感が持てるね」

 後もう一押し、と言った所だろうか。好機と見た僕は一気呵成に言葉を紡ぎ続ける。

「このままでは終われないと自分でも思っているんだろう? だったらその心の思うままに何度だってやってみれば良い。第一このまま意気消沈しながら今を過ごす玉でもないだろう。少なくとも僕の知る霧雨魔理沙は他の誰よりも『今』を楽しむことを知っている人間だったよ……僕の話は以上だ」

 僕の言葉に何か思い至る所があったのか、魔理沙は顔を上げて外を見詰める。そこで初めて僕は彼女の目を見たのだが、その瞳は最早曇り一つ無く晴れ渡っていた。美しく煌めくその瞳はまるで星を閉じ込めた宝石のようにも思える。

「そうだな……あんまりぐちぐち悩んでるなんて全く以て私らしく無かった。何事もぶつかってみるのが私の性分だったな! この霧雨魔理沙様ともあろう者が香霖なんぞの言葉に諭されるとは……まぁ、ありがとな」

 最後に消え入るような声で礼を告げたかと思うと、魔理沙は勢い良く大空へ向かい飛び出していった。全く……世話が焼ける妹分だ。何はともあれ、これでようやく読書に集中出来る。未知の物語を読み進めるのは何時だって心が躍るものだ。僕は高揚する気持ちを抑えながらその物語を読み始めた……

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
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