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彼は如何にして弾幕を愛するようになったか

分類:一次創作 掌編
 
 
 私の友人にシューティングゲーム、その中でも俗に言う弾幕シューティングというものを、こよなく愛している者がいた。
 何でも彼の話によると、新しいゲームが発売されれば誰よりも早く手に入れようと飛び出して行き、いざ手に入れば昼夜を問わず没頭し続ける。そうして寝食も忘れ集中し、クリアするのと同時に急に糸が切れたように眠るのだそうだ。彼のその心酔振りは、私にはまるで聖地へと熱心に祈りを捧げる殉教者のようにも思えるものだった。

 一方の私はと言えば、そのようなゲームは全くと言って良いほど不得手で、何度か手を付けたことはあったもののまるで歯が立たなかった。一応は何回かは遊んでみるものの、上手く先へと進んでくれない自らの腕前の為に意気込みというものをすり減らし、その内クリアを諦めさじを投げてしまう、という有様だった。それ故、彼が何故そこまでゲームに対して全てを捧げる事が出来るのか、その理由が全く理解できずにいた。

 しかし理解出来ないからと言って、そのままあっさりと努力を放棄するのは、なんとなく意心地の悪いものがある。弾幕シューティングが苦手な私でも、さじを投げるまでには何度か挑戦を試みるのだから。
 それに、これでも私は彼の友人を自負しているのだ。かと言って、全く理解出来ない私の頭では、幾ら考えたからといって結論が出るものではない。零に数字を幾ら掛けた所で零にしかならないのだから。そういう訳で、私は直接彼へとその疑問をぶつけに行ったのだった。

  ◆  ◆  ◆

「それはだね、世界を自らのものにする為だよ」

 彼は私の疑問に対して、開口一番そう告げた。
 思わず私は、疑念の意で満ちた視線を彼に投げ掛ける。

「そんな可哀想な者を見るような目は止めてくれないか。まぁ、確かに今のは少し言葉が足りなかったようだ」

 少し、どころではなかったが。だが、此処でそれを告げても彼はきっと聞き入れるような耳は持っていないだろう。現にもう自らの世界に入り込み、今にも続きを語りだそうとしている。

「この画面中所狭しと飛び回る色取り取りの弾の群れ、これらは君にはただただ無秩序に飛び回っているようにも見えるかもしれない。だが実際は違う、この小さな弾の一つ一つがある一定の規則に従うことで、最終的に巨大な単一の美しい幾何学模様を描いていくのだよ」

 そのとき彼が示した画面の中では、細部を見ると確かに意味も無く弾が飛び交っているように感じるが、俯瞰の視点から観てみると確かに大輪の華が咲いていた。

「どうだい美しいだろう。だが話はこれで終わりでは無い」

 彼は益々饒舌になり、自らの正しさを世界に証明せんとばかりに言葉を紡いでいく。

「ミクロの視点に立ち、一つ一つに目を向けると無秩序だが、マクロの視点に立ってみると実はそれらはある大きな法則に従い動いている。どうだい『何か』に似ているとは思わないかい?」

 突然その様に話を振られても、彼の話に聞き入っていた私は今得た情報を整理するのに一杯々々だった為、その質問へと彼が満足する答えを返すことが出来なかった。

「思い至らないかい? まあいいだろう。実を言うと僕はね、この弾幕が『人間』に似ていると感じるのだよ」

 また、彼は、何を、言っている? 自分の理解の範疇を遙かに超えた彼の言葉に、私の思考は思わずその歩みを止めてしまった。

「だから、そんな可哀想な者を見るような目は止めてくれと言っているだろう。まぁ聞け、僕も君も、それから街中に溢れている人々も、誰一人自分が何かの規則に従って動いているとは露とも考えていないだろう。しかし、何万人、何億人の規模で統計を取ってみると如何だろう。不思議な事に、大半の人物がその統計に従って日々を生きていることになってしまう」

 なるほど……今の世の中平均的な生活から大きく逸脱して生きている者など、そうは居ないだろう。
 少しずつ思考の歩みを進めながら彼に向ける反論を考える中、彼は最早私などお構いなしに、演説と見間違えんばかりの勢いで語り続けた。

「その類似性から僕はこの弾幕に対し『人間』を投影するようになった。弾幕が『人間』を表すならば、その弾幕を形成する法則こそが『世界』であると言えるだろう。してみれば、ゲームをクリアするということは果たしてどのような意味を持つか?」

 彼がこれから言わんとすることに薄々感づいた私は、背筋に何やら怖気が奔るのを感じた。

「そう! 『世界』を従える法則を超克すること。それ即ち、世界を我が手の内とする事と同意義ではないだろうか!」

  ◆  ◆  ◆

 以上が一週間前に彼と語り合った、と言っても彼が一方的に私に掻き口説いていたのであったが、全てである。

 彼の言説は、いくら思案を重ねてみた所で、到底まともなものだとは思えない。あまりに突飛でいて、稚拙だとしか考えられない。
 一つのゲームが一つの『世界』なら、世には一体幾つの『世界』が溢れている事になるのだ。そしてその『世界』の創造主も。それの内数個を自らの手の内にした所で、何にもならないではないか。
 第一、弾幕シューティングが『世界』なら、他のゲームはどうなのだ。例えばRPGなんて、機械の中に『世界』を想像する最たるものではないか。

 だが、何故なのだろう。いくら振り払っても、私の心には暗澹たるものが押し寄せるのは。
 何故なのだろう。道行く人の群れを見たとき、何者が発したものか判らない視線を頭上、遥か天蓋の方から感じる気がするのは。
 何故なのだろう。頭では彼の考えがおかしいと理解しているはずなのに、心の奥深くの部分がそれを否定するのは。

 余談ではあるが、私はこの会話以来シューティングには手を出せずにいる。
 
 

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
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