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それすらもおそらくは平穏な日々

分類:森近霖之助 霧雨魔理沙 掌編
 
 
「そう言えば、香霖の誕生日はいつなんだ?」

 いつもの香霖堂内での他愛ない会話の途中、魔理沙がふと思いついたような調子で聞いてきた。彼女のこの言葉は前後の文脈からはまるでかけ離れていて、一瞬僕は何を問われているのかを理解出来ない。正確には言葉それ自体の意味は理解出来るのだが、僕の頭が読み取ってくれないと言うべきか。魔理沙に限らず、この界隈の少女達は得てしてそう言った会話をする事が多い。
 それにしても、僕の誕生日、か。先程まで闘蟋の奥深さ、強者となる戦士を育て上げるには、その身体に流れる血潮の熱さを見極め、そしてそれらを掛け合わせる試行錯誤の連続が重要という話をしていたはずなのだが。もしその血の系譜を掛け合わせるの話から、僕の妙な生まれの事を連想したのだとしたら、それはそれであまり愉快ではない話だ。決して僕は強い戦士を生み出そうとして、試しに作られた存在ではないのだから。

 そんな訳で僕は僕の勝手な連想から、一方的に少し不愉快な気分に陥っていた。だからだろうか、彼女を困らせてやろうなどと思ってしまったのは。結局あとで数倍返しにされる事は経験から知っていたはずなのに。

「あぁ、僕の誕生日なら今日だよ」

 もちろん、本当は今日などという事はない。もしかしたら今日なのかも知れないが、それは贔屓目に見て0.274%位の確率だ。閏年を考慮に入れるのなら0.273%まで確率は下がる。まぁ出題者自身が答えを知らない問題なのだから、この確率は机上の空論にしか過ぎない。

 そして魔理沙はと言うと、僕の適当極まりない返答に対して目を見開いてこちらを見詰めている。
 フムン、あまりにおざなりな解答に呆れ返ってしまったのだろうか。かといって問い詰められても僕の方も知らないのだから、出来ればこの話題はこのままお流れになってくれると助かるが。

「今日!? 今日だって!? そういう事はもっと早く言え!」

 どうやら、先程目を見開いていたのは呆れていた訳ではなく、驚愕していたらしい。寧ろその事実に僕が驚愕した。
 まさか、本気で僕の誕生日が気になっていたとは。短いとはとても言えないほど付き合いを重ねているが、僕の生まれた日などを気にしたそぶりは今まで一度もなかったのに。

「もっと早く言っていたらなんだって言うんだい? もっと早くから僕はツケを払えと言っているのに、全然気にする気配はないじゃないか。だから誕生日について教えた所で、同じ事になると考えていたんだけどね」
「馬鹿! それとこれとは話が別だ! ちょっと待ってろ、今日が終わる前には戻るから!」

 待ってろも何も、ここは僕の家なのだが。
 しかしそんな返答をする相手は既に目の前になく、残されたのは彼女の起こしたつむじ風と、見事に突き破られた店の扉だけだった。せめて外に出て扉を閉めてから飛んでいっても罰は当たらないと思うのだが。

 全く、一体なんだというのだろうか。もしや僕に誕生日プレゼントでも贈ってくれるとでも言うのだろうか。
 フムン。誕生日プレゼントに溜まったツケでも払ってくれるのなら大歓迎なのだが、恐らくそれは期待出来ないだろう。何しろ、昔から魔理沙のくれるプレゼントは一般的なそれとは少々趣が異なった、言ってしまえば妙な物が多かったからだ。
 例えばそれは蝉の抜け殻であったり、カブトムシの標本であったり、どこから拾ってきたのか、天に拳を掲げた筋骨隆々な男の人形であったり。

 まぁ、僕の方にも問題はあったのかもしれない。これはいらないと無下に突っぱねていれば、捨てようにも捨てられない物が僕の倉庫に増えていく事もなかったのだろう。
 しかし僕には彼女なりの、いわゆる普通からは少しずれた心がこもった贈り物をはねのけるなんて事は、出来なかったのだ。それは道具を扱う者なりの矜持でもあったし、彼女の笑顔を曇らせたくないという親心めいたものでもあったと思う。結局、僕は彼女の贈り物を喜んで受け取り、満面の笑みで「ありがとう。大切にするよ」と返すしかできなかったのだ。
 全く、これで彼女の感性さえまともだったのならこんな苦労はしないのだが、一体誰に似たのだろうか。十中八九親父さんの影響だと僕は睨んでいるが。

 そんな訳で僕は、プレゼントの内容には期待しないで魔理沙の帰りを待つ事にしたのだった。幸い、扉の修理という可及的速やかに行わなければならない仕事が出来たので、暇を持て余す事はなさそうだ。

  ◆  ◆  ◆  

「で、これは一体何なんだ?」

 僕の言葉に、魔理沙が鍋からこちらへと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わず僕は肩をすくめてしまう。
 フムン、そんなに判りにくい事を言っただろうか。

「何って、私の作ったキノコ鍋だよ」
「それは見れば判る。僕が聞きたいのは、何故君は山盛りのキノコを持って帰ってきたと思ったら、突然鍋を作り始めたのか、と言う事だ」
「馬鹿、これで作った鍋は絶品なんだぜ。その味と言ったら、賢者も月までぶっ飛ぶほどだ」

 鍋の載った卓袱台を挟んで僕の向かいに座った魔理沙がそう言いながら、僕の方へと鍋をよそった器を寄越す。器には見た事のないキノコと澄んだ色の出し汁がたっぷりと盛られており、そこから立ち上る湯気と香りが、僕の胃袋を刺激する。
 まぁ、話は食べ終わった後でも出来る。しかし食べる事を話が終わった後にしていては、食べ頃を逃してしまうだろう。つまり今は話す時ではなく、食べる時と言う事だ。
 僕は得体の知れないキノコを掴むと、意を決して口へと運ぶ。
 フムン。これは……
 魔理沙の言葉は実際誇張ではなく、確かに絶品と言える味だった。流石に月までは飛びそうにないが、僕の箸が止まる事を知らずに鍋へと伸びるくらいの効果はある。中々どうして、魔理沙もやるものじゃないか。

「な、美味いだろ。ま、お前がもっと早く教えてくれればケーキや他のプレゼントなんかも作れたんだが、今の私じゃ時間はどうにも出来なくてな。今日の所はこれで勘弁してくれ」
「これで充分だよ。寧ろ、こういったプレゼントの方が僕は嬉しいね」

 この言葉には、後片付けが楽で、と言う意味が多分に籠もっているのだが、それをわざわざ臆面に出す事はしない。実際この料理は美味いのだから、それで良いのだ。

 僕と魔理沙は向かい合って鍋を突きながら、舌鼓を打つ。その情景が僕には何故かとても贅沢に思えて、誕生日というものはこういうものだったのかと、一人得心を得た。
 何しろ、こういった事には今まで無縁だったのだ。祝おうにも、当の本人がその日を知らなかったのだから。

「誕生日とは、存外に良いものだったんだな。知らなかったよ」

 胸に満ちた感情が思わず口から溢れてしまい、言葉になる。当然その言葉は向かいに座る魔理沙にも聞こえていたようで、彼女は弾けるような笑みを浮かべた。

「だろう! だから早く教えてくれれば良かったんだ。ま、なんなら誕生日だけとは言わず、これから毎日飯をつくってやっても良いんだぜ」

 勢いづいて末恐ろしい提案をしてくる魔理沙。全く、そんな事になった日には、どんな日常が待っているかは想像に難くない。誕生日は年に一回だから特別なのであって、毎日あってはそれは特別でもなんでもなくなってしまう。

「残念ながら香霖堂の炊事担当は間に合ってるんだ。それよりも溜まったツケを払ってくれる方が余程ありがたいな」
「人の善意を無視する奴は、一生苦しむ事になるぜ」
「その言葉をそっくりそのまま返したい所だ」

 ここで今日が誕生日というのが嘘だと伝えたら魔理沙は怒るだろうか。それこそ善意を無視どころか、踏みにじる事に他ならない行為なのだから。いや、寧ろ本当の事にしてしまうのも悪くないかも知れない。いつだか判らないのだから、今日という事にしても何も問題はない。
 そんな事を色々と考えつつも、最終的に僕はそれらの思考を全て投げ出す。まぁ、良い。今はただ僕を祝福してくれるというのだから、ありがたくそれを受け取っておくのが得策。後の事は後で考えるのが一番だ。

 そうして、思い付きの誕生日を祝う団欒は夜更けまで続くのだった。
 
 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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