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我語りて世界あり

分類:森近霖之助 霧雨魔理沙 短編
 
 
 小説というものは、言ってしまえば冗長性の塊だ。

 例えば、感電するほどの喜びを綴った小説があったとする。しかし『感電するほどの喜び』というものがその一語で表せるのならば、それが全てとなり、その簡潔極まりない一語で事は足りてしまう。
 だがまぁ、当然そんな都合の良い事は無いのだから、作者は苦労をしてその一語を別の数多くの言葉で近似するのだ。種々の言葉をひねり出すうちに、やがて朧気に『感電するほどの喜び』というものが浮かび上がってくる。そうやって出来上がったものが、小説というものなのだ。

 小説はそのように、たった一語で済むものを、わざわざ着飾った別の言葉をもって飾り立てる。逆に言えば、一語では到底言い表せないからこそ、無駄に別の言葉が必要になるのだ。
 そうやって一語を表現する為に別の言葉が必要になり、その別の言葉が呼び水となり更に多くの言葉を呼ぶ。無限に広がる言葉の連鎖が、覗き込めば魂ごと引き込まれてしまいそうな、暗く深く大きな穴を形作る。一厘の意味を表す為に、九割九分九厘の冗長性が生まれるのだ。

 ここで作家がその冗長性を無理に押しとどめようとした結果、抑圧された言葉達が事象の地平面の内側に押し潰されてしまう事も往々にある。そうして生まれるものは無明の闇にも似ていて、その暗闇の中に意味を見いだそうにも、言葉の連なりすら上手く判別できないものになっている。下手に扱うとそれを生み出した作者でさえ甚大な被害を受け、ともすればその重さに捕らわれ、帰ってこられなくなる危険性すら秘めている。
 逆に作家がその冗長性の連鎖生成を上手く操縦できなくなった場合も、同じような危険性を排出する。作者の手綱を離れた小説は際限なく冗長性を生み出し、いつ果てるともしれぬ言葉をはき出し続けるのだ。こうして生まれた永遠の未完の大作は、作者のみならず読者の側にも不幸をもたらす場合が確認されている。
 このように、小説というものは非常に取り扱いの難しい、ある意味では危険な生物ともとれる向きがある。

 要するに、人の想いを形にするに当たって、言葉という道具は最適化されていないのだ。
 各々が思い思いに抱く、非言語的な感情。非言語的なものを言語で現そうとしているのだから、これは端から勝ち目のない戦いに挑んでいると言っても過言ではないだろう。この戦いは、何となく書いている内に思っている事に近付いてきたな、程度に止めておくのが良いのだ。さもなければ、永久に亀を追い続けるアキレスのようになってしまう。

 つまり小説は、自分の中にある非言語の想い、即ち自らが抱く幻想を何とかして外部空間に出力する為の道具、とも言える。例えば紙に記されて外部に出力された幻想は、皆の中にある幻想と共感・共有されていく。その幻想が波及して多くの他者に受け入れられていくほど、それは皆の内部空間を繋ぐ新たな共現実となって世界へ投影されるのだ。言葉は幻想と現実、他者と自分を繋ぐ架け橋と言い換えても良い。
 もちろん、やたらめったら幻想が現実となっては世界も大変なので、ある程度の節度というものは存在する。というよりも、殆どの幻想は誰とも共有される事は無く、その人の内部世界だけに存在する儚い妄想となって終わってしまう。
 幻想を妄想のままにはしておけず、言葉に出来ないその感情を冗長性という鎖で絡め取り、何とかして現実世界へと放流しようと苦心するのが、人間という因果な生き物なのだ。これはかつて先祖達が、言葉というものを自己表現と他者交流の道具として選択した事に対する、一種の応報とも言えるだろう。とは言ったものの、これ以上のコミュニケーションツールを僕達は知らない訳で、一概に御先祖を責める訳にもいかないが。

 皆で創り上げた共同幻想が現実へと影響を及ぼす、と言うのは何も小説に限った話ではない。
 例えば、宗教。神という人の領分を超えた存在を、人々の強い信仰という幻想で生み出す。
 例えば、社会。一人では生きていけぬ者達が集まり、ここならば安心して生きていけるという幻想を共有して土台とし、日々の営みを送る。
 この様に世界というものは、仮想であるはずの小説と、構造的には大して変わりがないものなのだ。どれもこれも人間という存在が、言葉という道具をもって生み出しているものなのだから。

 さて、最初に挙げた『小説は冗長性の塊である』という事実と『世界というものは小説と構造的には変わりがない』という事実。この二種類の材料より、非常に興味深い言葉が生成される。
 それは『世界は冗長性の塊である』という一語だ。
 もとより、僕が言いたかったのはこのたった一枚の言の葉なのだ。この一語を生み出す為に、僕は長々と冗長性を生み出す羽目になった。

 先程からこの文章を読んでいる方の中には、「で、これは一体何なんだ? 『世界は冗長性の塊である』として、それが一体なんだって言うんだ。この小説は結局何が言いたいんだ」と考える方も存在するかと思う。
 しかしそういう方々を裏切るようで悪いのだが、僕としてはこれを小説として書いているつもりは毛頭無い。

 これは、遺書なのだ。少なくとも僕にとっては。

 もちろん読者にとっては、読んでいるのが小説だと言われようが、遺書だと言われようが、はてまた経文だと言われようが、関係ないだろう。それは作者の内部世界においての幻想であって、読者にとっての幻想と共有するかは、その方自身が決断する事なのだから。
 なのでここでは取り敢えず、僕にとってこれは遺書だという事にして頂けると助かる。これを読んだ方がそれをどう受け取るかは、僕には関係ない世界の話である事だし。

 さて、これは僕の遺書であるので、次には僕が遺書を書く事に至った理由。つまりは死へと向かおうと決めた理由を書こうと思う。

 僕が死のうと思った理由。それは『冗長性を減らしたかった』から。ただそれだけの、単純な理由だ。

 世界は冗長性の塊なのだから、その塊の上で生きている僕らも、必然的に冗長性にまみれる。冗長性が新たな冗長性を呼ぶのは既に判って頂けていると思うので、既に僕らが逃れ得ぬほど全身に冗長性を纏っていることも判って頂けると思う。
 一度その事実に気が付いてしまった僕は、その全身に纏わり付く余計なものが、何故だか煩わしくて仕方なかったのだ。
 これには、僕が半妖である事も関係しているのではないかと思う。人間の血に妖怪の血。どちらがどちらに混ざったのかは定かではないが、とにかく僕には生まれたときから余計なものが混じっているのだ。
 ただでさえ人よりも冗長を背負っているのに、生きているだけでその冗長は更に増えていく。その見えない鎖は僕の事を雁字搦めにして、最早窒息寸前にまで僕を追い込んでいる。我ながら、なんという面倒な世界に生まれてしまったものだ。
 冗長。全ては冗長。何もかもが余計。

 なので僕はその余計で冗長なものを全てこそぎ落として、すっぱりさっぱりしてみようと思ったのだ。まぁ、死んだからと言って全てが全て綺麗になるとは限らないだろうが、少なくとも身体分は軽くなるだろう。
 そんな訳で、ちょっと僕は死んでみようと思い立った訳だ。生き物というのは大体何となく生まれてきてしまったのだ、ならば何となく死んでみる生き物がいても別に良いだろう。

 さて、冗長性に満ちた人生の締め切りとして、冗長性に満ちた文章を書くのも中々重畳だった。それでは、これをもって僕の冗長性を終わりにしようと思う。

 それでは。

  ◆  ◆  ◆  

「で、これは一体何なんだ?」

 魔理沙が、先程より見詰めていた紙束から僕の方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わず僕は肩をすくめてしまう。
 フムン、若干判りにくい内容だったろうか。

「何って、僕の書いた小説だよ」

 僕は彼女の問いに、冗長性を切り落とした簡潔な答えを返す。

「小説? こいつには遺書とも書いてあるが」
「だから、そういう体裁の小説という訳だよ。読み終わったのなら感想を貰えると助かるのだが」
「正直な所を言えば、よく判らん。下手な魔導書の方が、よっぽど意味が理解出来るぜ」

 魔理沙が得体の知れないものを見る目で僕を睨む。僕としてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。僕が自信を持って魔理沙に渡した小説は、どうやら彼女にとっては難解だったようだ。その事実に、僕の自尊心は思わず打ち砕かれそうになる。もっと、こう、絶賛の言葉が僕を包み込むものだと思っていたのだが。

「ま、こういう小説が売っていたのなら、一冊買っておくのも悪くないかもな。何かの足しにはなるかもしれないし。今の所、その足しの見当は全く無いけどな」

 明らかに意気消沈する僕を見かねたのか、魔理沙が代金を払わなくもないという絶妙なラインの救いの手を差し伸べる。
 それにしても『何かの足し』、か。何かの足しにしようとこの小説を書いた訳ではないが、それでも全く収入の足しにはなりそうにもないことが判ると、僕の頭はずっしりと重くなった。
 あわよくば、道具屋店主と人気作家の二足のわらじも悪くないと考えていたが、それはとんだ皮算用だったようだ。
 執筆中は我ながら筆先が踊ると言っても良い華麗さで書き進めていたものだが、今となってはそれすらも滑稽な一人芝居に思えて仕方が無い。熱中のあまり客への応対すらも放置して執筆活動に打ち込みながらも、その結果がこれでは本当にお笑いだ。全く、我ながら余計な事をしてしまったものだ。冗長に関する文で店の状態を悪化させていたら、冗談にもならない。

 僕は魔理沙から紙束を返して貰うと、それを一思いに屑籠へと放り込む。たちまち僕の生み出した冗長性が籠内を満たす。これであの小説に綴られた幻想は、誰とも共有される事は無く儚い妄想へと立ち戻り、あえなく消去される運命に決まった。
 これで良い。誰にも求められないものなど、初めから存在しないも同じなのだから。寧ろ冗長性という余計なものなどは、存在しない方が喜ばれるものに違いないのだから。
 土は土に、灰は灰に、塵は塵に。そして余計なものは余計なものへと還すのがふさわしい。全く、慣れない事はするものではないな。

 子供じみた八つ当たりに近い形ではあったが、ともあれこれで気分は幾分回復した。僕は一つ伸びをすると、やや晴れやかな心持ちで椅子へと座り直す。そして先程まで抱いていた儚い妄想の事など頭の中から消し去ると、いつ来るとも知れない客を待ちながら、客気取りの乱入者との世間話に花を咲かせる事にした。

 フムン。やはり僕には、大人しく道具屋の店主を続けているのが似合っているようだ。

  ◆  ◆  ◆  

「で、これは一体何なんだ?」

 魔理沙が、先程より見詰めていた紙束から僕の方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わず僕は肩をすくめてしまう。
 フムン、若干判りにくい内容だったろうか。

「何って、僕の書いた小説だよ」

 僕は彼女の問いに、冗長性を切り落とした簡潔な答えを返す。

「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばお前や私が出て来たりで、何が何やらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説という訳だよ。読み終わったのなら感想を貰えると助かるのだが」

 魔理沙が得体の知れないものを見る目で僕を睨む。僕としてはそこまで正体不明なものを書き上げた自覚はなかったので、少々の衝撃を受けた。
 しかしあくまでその衝撃は微々たるもので、僕の自尊心を瓦解させるまでには至らない。我ながら正体不明ほどではないが、程々に判りにくいものを書いたという自覚はあるからだ。
 僕は小説内に登場させた自分とは異なる思考を展開させると、覚悟を決めて彼女の感想を待つ。

「そうだな。少なくとも私は、この小説が売っていても欲しいとは思わんし、お前が素直に死ぬとも思えん」

 ここで魔理沙は一つ息を入れると、まるで次に放たれる言葉が必殺の一撃でもあるように、僕を強く睨んだ。

「そして読んでいて何よりも気に入らなかったのは、作中でお前が一度は信じて作り上げたものを、『余計な事』の一言で切って捨てたことだ! 私はそんな展開は絶対に認めたくないな!」
「フムン。なるほどね」

 僕は魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのような激情に駆られた答えが、彼女より飛び出すのを待ち構えていたからだ。

「魔理沙、君のその怒りは、正しい。寧ろその感情こそが、これを読んだ者の心に沸き上がって欲しいと思って書いたのだから。全く、君は僕の望み通りの読者だよ」
「……どういう事だ?」
「僕はね、これを反面教師と取って貰いたいのさ。『ここに書かれている事を認めたら、自分は否定されてしまう』とばかりにね」

 唇よりこぼれ出す笑みをそのままに、心底愉快で堪らない気持ちで魔理沙へと僕の狙いを語る。

「そして否定をされそうになった対象が取る行動は幾つか考えられるが、その中でも僕が心待ちにしている行動が一つある。それは『否定されたのなら、否定し返せ』だ。読者の右の頬を張ったとして、その後に左の頬を差し出される事を僕は望まない」

 そう、僕の小説を読んだ人物達のうち幾人かは、そんな事はない、こんな展開は認めないと、自らの幻想をもって僕の幻想を否定しに掛かるだろう。僕はその展開こそを、楽しみにしているのだ。
 生の感情をそのまま不器用に文章にしようとして、必死に言葉を繰る。時には地べたを這いずり回り、挫折にまみれる事があろうとも、自らの内に滾る感情の固形化を目指して足掻き続ける。そうやって生まれた小説は、きっと素晴らしいものになるに決まっている。そしてそういった小説こそ、僕へと『感電するほどの喜び』をもたらしてくれるだろう。

 僕一人では到底辿り着く事の出来ない、言葉という道具を介した交流によってこそ切り開かれる、新たな世界。
 その止揚した世界が僕へと喜びをもたらす未来は、きっとそれほど遠い先の事ではないだろう。僕は、言葉という道具が持つ可能性を信じているのだから。

  ◆  ◆  ◆  

「で、これは一体何なんだ?」

 魔理沙が、先程より見詰めていた紙束から僕の方へと目線を移す。そこには明らかに怪訝な表情が浮かんでおり、思わず僕は肩をすくめてしまう。
 フムン、若干判りにくい内容だったろうか。

「何って、僕の書いた小説だよ」

 僕は彼女の問いに、冗長性を切り落とした簡潔な答えを返す。

「小説? こいつには遺書とも書いてあったり、かと思えばお前や私が出て来たりで、極めつけは似たような構造の文章が続いたりで、全くもって何が何やらなんだが」
「だから、そういう体裁の小説という訳だよ。読み終わったのなら感想を貰えると助かるのだが」

 魔理沙が得体の知れないものを見る目で僕を睨む。まぁ、確かに自分の書いたものながら、非常に理解し辛い構造になっている事は判っている。
 それでも魔理沙ならば、僕の言葉を無下に切って捨てることはせず、何らかの言葉は返そうと努力してくれるはずだ。

「そうだな。本当に正直な所を言ってしまえば、やっぱりよく判らん。例えば文中に出てくる香霖達にしたって、発する言葉のそれぞれがもっともらしく聞こえるようであり、かといって私の考える香霖はそんな言葉を決して吐かないようにも思える。まるで出来損ないの幽霊でも見てる気分だぜ」
「フムン。なるほどね」

 僕は魔理沙のその答えに、思わず笑みがこぼれるのを止められなかった。そのようなあいまいな答えが、彼女より出てくるのを待ち構えていたからだ。

「君が抱いたその感想こそ、僕が言葉という道具を通して世界に投影したかった、世界の持つ冗長性というものだよ。そう、この小説を欲しいと思う君も、素直に死を選ぶ僕も、否定し返される事を望む僕も、確かに現実には存在しないかもしれない」

 僕は大仰に手を振り上げながら、魔理沙に蕩々と解説を行う。これこそが、僕が言葉という不便な道具を使ってさえ語りたかった事なのだから。

「だが、誰かの内面世界にある幻想には、冗長性の一部として存在する可能性がある。少なくとも僕の内部にはあるからこそ、今回はそれが顔を出した訳だ。つまり、誰にも求められないはずの存在なんて存在し得ないと言う事さ」

 僕の解説を受けたというのに、魔理沙は先程までと同じ、合点のいかぬ表情を浮かべている。

「結局、香霖は何が言いたいんだ? それこそ冗長すぎて冗談にしか思えないぜ」
「『何が言いたいのか』、それが言えたら冗長性は存在しないんだよ魔理沙。まぁ、一言でかみ砕いて言うのならば『冗長性があるからこそ、様々なものが生まれ、存在する』と言う事さ」

 そう、水清ければ不魚住。あまりに何でも一意に定まってしまえば、終いには無味無臭な狭苦しい世界になってしまう。適度に余計なものを受け入れる余裕があるからこそ、世界が広がっていくのだと僕は思う。
 言葉が持つ冗長性という鍬が、感情という土壌を掘り返し、豊かな畑を創り上げていく。そうして世界は豊かになっていくのだ。

 全く、言葉というものはなんと不便で、そしてなんと素晴らしい道具なんだろう。

  ◆  ◆  ◆  

「で、これは一体何なんだ?」
 
 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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何かありましたら上記の連絡先までお願いします。
(○を@に変えて下さい)

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