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それを魔法と呼ぶのなら

分類:森近霖之助 霧雨魔理沙 掌編
 
 

 
 
 文字というのは、それ単体では単なる記号でしかない。しかし、その記号が一定の法則に従い連なった時、それは人の心を捕らえて放さない魔法へと変わる。僕もそれら種々の魔法に魅せられた人間の一人だ。そして今も視線を、指を、そしてこの心を、本という魔法を刻んだ媒体から離せずにいる。
 だがしかし、僕の向かいで一人退屈を噛みつぶしている少女は、そんな魔法に掛かった僕の態度がどうにも気にくわなかったらしい。
 いつもの壺の上に座り込み、所在なさげに足をぶらぶらさせていた魔理沙。しかしやおらに立ち上がりこちらに近付いてくると、いきなり僕の手から読書中の本を引ったくっていった。
 全く一体何だというのだろうか。ここが詰まらないと言うのならば、外に出ればいくらでも詰まる場所はあるだろうに。僕にまで彼女の退屈を共有させようとしているのだとしたら、そんな事をして一体誰が幸せになるのだと言ってやりたい。

「そんな物語なんて読んで何が面白いんだ?」

 どうしたものかと思案する僕を尻目に、魔理沙が疑問を投げかけてきた。何が面白いか、か。これは存外に難しい問題だ。個々人の感性は千差万別。僕が面白いと感じたからとて、他の人にとってもそうとは限らない。万人が認める面白さの定義などと言うものが出来れば、それは人の心の全てを解き明かしたことと同意義と言える。

 やや悩んだ後、僕は答えを出すことを諦めた。そしてこの場は大人しく、僕個人にとっての読書の意味を語るに止まる事にする。

「何が面白いかと来たか。そうだね。例えば僕が今読んでいた物語」

 そう言いながら僕は魔理沙の手に捕らえられた、先程まで僕を捕らえていた本を取り返す。

「これは外の世界から流れてきた小説、それもどうやら恋模様を描いた小説らしい。そして小さなこの本一つとっても、その中には沢山の起伏に満ちた体験が込められている。疑ってみたり、不安がったりとね。それら多種多様な生き様をなぞる事で、僕の心にも数多くの柔軟な思考が生まれるのさ」

 僕は口を動かしつつも、今度こそ魔理沙に奪われないよう、彼女からは見えない番台の影へとそっと本を隠す。

「自分一人で生きていくだけでは得られない多くの経験。それを本の中から得られることが、僕にとっては面白いんだ」
「そうか……そんなジャンプ台ばかりの本を読んだせいで、香霖からはぶっ飛んだ考えばっかり生まれるようになったんだな」

 僕の解答に何処かずれた感想を返してくる魔理沙。人の思考を飛び出していると評するが、そう言う彼女も大概なものだろうに。

「それに私だったら、そんな七転八倒七転び八起きの七面倒くさい展開なんて読んでいられないな。ハッピーエンドさえあれば充分だぜ」

 過程は余計、結果だけ有れば良いと。まぁ魔理沙らしいと言えばらしいか。やはり彼女は、物語の醍醐味を知るにはまだ早かっただろうか。
 そんな未発達な彼女を諫める為にも、彼女が挙げた意見のつまらなさを指摘するとしよう。

「フムン。そうは言うがね、最初からハッピーエンドの物語なんて、3行あれば終わってしまうだろう。それではいかにも味気ない」
「3行か、それなら私にも書けるぜ。最初の行は『むかしむかし』、最後は『めでたしめでたし』って具合だ」

 昔話の基本を踏襲しつつ、自分にも出来ると言い切る謎の意気込み。僕はそれに興味を覚え、思わず番台へと身を乗り出す形となる。一体たった1行で何が出来るというのだろう。

「ほう、それじゃあ間の1行を君がどう書くかが見物だな」
「1行分の単純な行動だぜ、それはな――」

 言葉と同時に、魔理沙の頭が僕の目の前へと近付いてくる。彼女の行動に気付いた時には、既に彼女の唇が僕のものへと重ねられていた。

 先程まで言葉を紡いでいた唇が、今は何も語らずに僕へと触れている。言葉は何も生まれていないはずなのに、不思議と魔理沙の声が僕へと聞こえてくる気がした。

 あぁ、確かにこれも彼女の言う通り、物語の一つだろう。文字の魔法と同じように、今この瞬間、魔理沙は僕の心を捕らえて放さないのだから。

「どうだ、これでも味気なかったか?」

 勝ち誇った顔で僕を見る魔理沙。僕はと言えば、お手上げといった表情で彼女を見詰めつつけることしかできなかった。
 
 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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