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意味がない、故に意味あり

分類:一次創作 掌編
 
 
 文章には、書かれているものと、書かれつつあるものと、既に書かれてしまっているものと、まだ書かれていないものとのどれかの状態がある。無論、決して書かれないという可能性は存在する。しかし考えても見て欲しい。終わりがないものは存在しないのだ。始まりが存在する限り。

 そして文章が書かれるという行為。もちろんそれは、紙媒体に記述するという形式のみには囚われない。電子的な媒体もあるだろう、音楽を文章と捉える向きもあるだろう、なんなら脳内を駆け巡る言葉に出来ない閃きの類でも良い。
 それらの多種多様な文章を、何一つといって生成することが出来ない人間はいないだろう。要するに、始まりが存在しない人間は、人間としての存在が許されないということだ。なにせ、始まりがないのだから。


 この文章は分類で言えば、書かれつつあるもの、つまり今これを読んでいるあなたによって意味が生まれつつある文字列だ。もちろん、正確に言えば『生まれつつある』という言い方は多少語弊がある。目線をざっと先の方に送れば、そこには文字らしきものがきちんと見て取れるし、文章の終わりもきちんと存在する。しかし、そうやって最後の文節を読んだだけでは、この文章の本質を理解した事には、決してならないのだ。

 ここで言わんとしている意味を簡単に理解したければ、定理の証明を思い浮かべて欲しい。
 確かに、QED直前の数式を見れば、『何の定理』が証明されたのかは一目瞭然だろう。しかしそれは、結果という表面だけをあなたが見ているのであって、その定理の『本質的な意味』を理解している訳ではない。その最後の数式だけを見たあなた自身は、単純であったはずの式が徐々に変形を遂げ、積み重なり、最終的に定理という美しい形へと変貌したのかが理解出来ないだろう。

 もう少し判りやすい形にするならば、この文章は一つの機械的なプログラムだと言える。
 プログラムというものは厳密で、最初の一行から最後の一行に至るまで、順に辿っていかなければ正しい動作が行われない。まぁ、細かく言えば分岐などで辿られない行もあるのだが、ここでは例えの話なので目をつぶって頂きたい。

 これでも理解が得がたい方にもっと判りやすく言うのならば、『スタートから歩かなければゴールには辿り着かない』という事だ。そういう認識で構わない。
 時々、自分勝手にスタートとゴールを設定してまるで泥酔しているかのように歩き始める人もいるらしいが、ここでは一応文章の始まりをスタート、終わりをゴールとして頂きたい。それが為されてこそ、生まれるものがあるのだ。

 この辺りの認識が、こちらから出来る最大限のかみ砕きだ。これでも意味が判らないという方がいたら、どうぞこの文章をうち捨ててしまってもらって構わない。どこまでも取り留めもなく広がる水平線でも眺めていた方が、余程有意義だろう。これ以上この茫漠とした文章を読み進めていったとして、あなたが得られるものは何もないだろうから。もっとも、意味が理解出来ているからといって、何か得るものがあるとは断定出来ないのだが。


 さて、先程は定理の証明を引き合いに出したが、これに関しては興味深い話題が一つある。それは『定理というものはどこから生まれたか』という話だ。例えば判りやすい例として『三平方の定理』を挙げるとしよう。三平方が気に入らなければピタゴラスの方でも良い。

 この定理は『斜辺を二乗したものは、それ以外の辺の二乗をそれぞれ足したものと等しくなる』というものだが、ではこの定理が証明される前はどうだったのだろうか。どう、というのは、斜辺の二乗とそれ以外の辺の二乗をそれぞれ足したものは、本当に等しかったのだろうかという事だ。

 もちろん『人がこの定理を見付ける前は、三角形の形が今知られている三角形とは違うものだった』なんて話は聞いた事がないので、等しかったのだと思う。が、もしかしたらの話だが、何千年もの昔では違う三角形だったのかもしれない。話が今に残されてないだけで。しかし、それはあくまで可能性の話。消えてしまった万に一つ可能性の話よりも、万に九千九百九十九の話をしよう。

 つまり何が言いたいかというと、この『斜辺を二乗したものは、それ以外の辺の二乗をそれぞれ足したものと等しくなる』という現象に意味を与えたのは、あくまで人間だ、と言う事だ。三角形の方では大昔から別に何と言う事もなく存在していたのに、人間が勝手に定理というものを持ちだして意味を定めたのだ。


 もう一つ、プログラムについての話もしよう。
 プログラムは厳密だ、との言及が先程あったが、実際にはその厳密なプログラムを実行する側もまた厳密ではならない、という問題がある。要するに、いくら厳密に記述されているプログラムでも、それを読み取る方が適当に、例えば一行を勝手に抜かしたり、勝手に行間を補完したりしていては、本来プログラムが作成された時に求められていたものとは違う結果が訪れる可能性があるのだ。

 そして人間は、こういった厳密で正確な作業をするにはまるで向いていない機械だ。人間のファジィさは、それこそ枚挙にいとまがない。例えば『あいう お』という文字列があった場合、あなたは何を思うだろうか。もしや勝手に空白へと『え』を補完して読んだのではないだろうか。

 人間は本質的に空白を見ると落ち着かない。興味があれば、目の構造上の『盲点』のメカニズムについて、あなた自身で調べてみるのも良いだろう。ここでは盲点についての記述は避けるからだ。本題とはいくらかの関係はあるが、如何せん興味はないので。

 結局の所ここで言いたい事は、人間とはその有り余る適当さと自由さとを活用して、何かしらの意味付けを行わずにはいられないのだと言う事だ。そうやって勝手に自分で意味を付けて、勝手に納得して、勝手に見付けた終着点へと落ち着く。それが人間という生き物なのだ。


 ここに至るまで、壊れた音楽再生機のように意味、意味と繰り返してきたが、では果たして『意味』とは本来どんな意味を持つものなのだろうか。
 この再帰的な問いの答えを考えるに、まずは辞書を引いてみるとしよう。一般的に知られている辞書にはこの様な記載がある。もしあなたが一般的という言葉が信じられないというのならば、どうぞあなたの手元にある辞書を引いてみると良い。大体同じような事が書いてあると思うから。

【意味】言葉が示す内容。また、言葉がある物事を示すこと。

 この記載によると、言葉によって示される事によって意味が生まれるのだという。では、言葉によって記載されなかったら、そのものの意味は生まれないのだろうか。あなたの頬を柔らかな風が撫でていったとして、あなた自身がその事を日記に書くなり、誰かに手紙にしてしたためるなりをしないと、その風に意味はないのだろうか。
 無論、そのような事はないとあなた自身は思うだろう。あなたの頬を撫でた風の意図など、風ではないあなたには知るよしもないだろうに。もしかしたら、風はあなたの頬を撫でたいのではなく、偶然通りかかったあなたにぶつかっただけだったのかもしれないのに。
 ではもし、あなたが頬を撫でていった風に気が付かなかったらどうなのだろうか。存在を気が付かれなかった風には、意味が存在するのだろうか。あなたという存在に気が付かれない存在は、存在するのだろうか。
 もちろん、物理学的に考えれば、それらの質量は確かに存在する。しかし、あなたという存在に関わることなく消えていく存在は、あなたの世界には存在すると言えるだろうか。地球上には何十億という人間が存在するが、あなたの生涯を通して、あなたの人生に全くの関わりを持つ事がない人物は、あなたの中にある地球には存在すると言えるのだろうか。結局、あなたの世界の全てはあなた自身が決める事なのだが。

 あなた自身の言葉が、あなたの世界にある意味を決める。あなた思う故に、全ては生まれるのだ。


 さて、この文章ももうすぐ終着を迎える。既に書かれてしまっているものへと帰結するのだ。ここまで読み進めるにつれて、あなたの中では何かが生まれただろうか。

 それではこの一々判りにくく七面倒くさい文章を読むあなたもいい加減痺れを切らしてきた頃だと思うので、お待ちかねのネタ晴らしを行おうと思う。
 実はこの複雑極まりない文章は、ランダムに文字を生成するだけの単純極まりないプログラムから流れてきたものを順に並べただけの、なんの意味もない文字列なのだ。そう、意味の無いはずの。猿が適当にタイプライターを叩いた文章と言い換えた方が理解がしやすいのなら、それでも良い。

 だから、もしここにあなたが意味を感じたとしたら、それはあなたが人間である故なのだ。これらの文字列に何かの意味が生まれるとしたら、それはあなたが思う故なのだ。もしも、あなたの『心』と呼ばれるファジィな物体に、この文字列の並びから生まれた何らかの有意義なものを発見したら、是非それを教えて欲しい。それこそが人間の素晴らしさなのだから。
 
 

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学


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鈴月

Author:鈴月
初めまして、鈴月(すずつき)と申します。最近になって東方に嵌った俄です。
ここではCoolier-クーリエ-東方創想話に投稿した作品のまとめ等を行いたいと思っています。

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